「じぶんの積立」に関する考察
じぶんの積立とは
じぶんの積立という明治安田生命が販売している積立保険が存在します。
これは少額の積立を行い蓄財をするための商品であり、月々5000〜20000円で行えます。一方、保険と銘打ってはいるものの、保険性は皆無で病気やケガおよび突然死等に備えるものではありません。
なお、本記事はこの商品の税金への影響、利回り等について検討するものであり、加入を奨励するものではありません。加入を検討される際は自己の責任において行ってください。
じぶんの積立の特徴
詳細はご自身で公式サイトを確認いただくのが確実ですが、簡単に整理してみます。
- 一口月々5000円で、最大四口まで加入可能
- 払込期間は5年間で、その後の5年間で運用され、計10年で満期となる
- 最初の5年間は運用されない
- 解約返戻金が常に100%以上
- 最初の5年間は100%、それ以降は運用益が乗る
- 健康状態とは関係なく申込可能、診断や告知も不要
- 死亡時は解約返戻金と同額の支払い
- 災害死亡給付金の対象となる場合は既払込保険料の1.1倍
- 一般生命保険料控除の対象となる
- 面談が必須
- 原則対面だったが、現在はオンライン面談も可能
と、一見意味不明な商品です。人件費とかは...?となりますね。
これはいわゆるドアノック商品(販売員の人はもう少し上品に「送客商品」と表現していました)で、明らかにお得な商品で客を釣りつつ他の商品を紹介する、という使い方をされています。
多額の積立ができない、面談が必須という点で見ても、あくまでも入門的な商品で本格的な運用は想定されておらず、他の商品でメリットを出すというのが読み取れます。
契約をする際
実はこの商品を私は契約していて、月々10000円の積立を行っています(これの評価については後述します)。積立自体は引き落としで行われるので一旦契約すれば後は特に手間はかかりません。
まずは資料をWebで請求するところから始まります(直接店舗に行く場合はどうなるのだろう?)。資料が届くあたりで明治安田生命から電話連絡が来て、そこで面談の予約を取り付けます。
私は割と近場に販売店があり、保険というものの世界観の興味本位もあって直接店舗に行きました。近場のカフェ等に来てもらったという方もいるそうです。ご時世もあるのでWeb面談という選択肢もありました。
実際にショップに行った際、他の商品についても一応興味のある体で伺ったのでいくらか商品を紹介されましたが、特に強い押しがあるわけでもなく、適当に話を聞きつつ雑談していたら終わりました。全部で1時間半程度だった気がしますが、いくらか商品紹介を聞いていたので長い方だとは思います。
金銭的メリットについての考察(利息)
ここからがメインとなります。この商品に限らずですが、積立保険という特性上、金銭的メリットは利息と税金が焦点となります。
まずは利息からですが、この商品は元本保証の安全性の高い商品であることから、利率はさほど高くありません。また、10年の契約となりますが、最初の5年は積立のみで利息は乗らず、後の5年で利息が乗っていくという形になります。
2022年の条件の場合、満期で103%の返戻金となるので、複利の投資として考えると10年で0.296%、最後の5年だけと考えても0.593%と見なすことができます。返戻金の推移はどうも単純な複利計算ではないようなので、途中解約した場合は多少話は変わりますが、まあ大きな差はないです。
ということで、元本保証(会社が破綻した場合は別、いくらか保険機構からの補償があるので全滅にはなりません)であることを考えるとまあまあ、積極投資としては物足りないという水準となります。他の安全性の高い商品と比較すると、高利率がウリのネットバンク等のキャンペーン付きであったり5年以上の長期定期預金が大体同じような水準になってきます。
なお、大手銀行の定期預金は0.002%程度、最近の国債は0.05%と、機関の信用を重視するとだいぶ渋い値であることがわかります。
ただ、いつでも解約可能で100%の返戻金がある(5年以下だと利息は付きませんが)ということは大きなメリットとなります。定期預金でも途中解約ができない、できてもペナルティが付くケースがあります。いずれにせよ最大でも年24万×5年しか積み立てられないので絶対値としてのインパクトはまあ微妙ですが、入門としては悪くないでしょうという程度の評価になると思います。
金銭的メリットについての考察(税金)
さて、この商品が評価されている文脈は一般的には利息に関するものではありません。保険への支払いや積立は一般的に税計算における控除対象になり、この商品も例外ではありません。区分としては一般生命保険料控除となります。
計算については下記のサイトがわかりやすいです。このサイトを確認してみると、年間の払込保険料が80000円になると控除の上限になることがわかります。控除対象の保険料区分は他に介護医療保険料、個人年金保険料がありますが、それぞれで計算されます(合算ではありません)。
そのため、節税という文脈で考えた場合、他に生命保険に加入している場合は無意味となります(少額であれば可能性はある)。身も蓋もない言い方をすれば、一般生命保険料控除枠を使い切るために使われる、ということになります。その観点で言えば二口ですらオーバースペックとなります。
ここからは他に生命保険を契約しておらず、控除をフルに活用できるという前提で計算を行っていきます。なお、所得税区分として20, 23, 33%の場合について検討してみます。他の税率に該当する場合はご自身で計算してみましょう。
まずは控除額の計算から。
所得税 | 住民税 | |
---|---|---|
一口 | 35000円 | 28000円 |
二口 | 40000円 | 28000円 |
そして、控除額から計算できる実際に金銭メリットとなる税額を計算してみます。併せて節税額と保険料から算出される利回り的な数字も計算します。ここでの計算は控除後も所得税区分が変わらないという前提で行います。ギリギリ下の区分になる場合は税率自体が変わってもう少し大きなメリットになりそうです。
所得税率 | 一口 | 二口 | |||
---|---|---|---|---|---|
節税額 | 利回り | 節税額 | 利回り | ||
20% | 7000+2800=9800円 | 16.33% | 8000+2800=10800円 | 9.00% | |
23% | 8050+2800=10850円 | 18.08% | 9200+2800=12000円 | 10.00% | |
33% | 11550+2800=14350円 | 23.92% | 13200+2800=18000円 | 13.33% |
この数値を見るととてつもない利回りに見えてくるでしょう。年利24%、なんて甘美な響きなのでしょうか。しかし注意していただきたいのは、この利回りは積み立てる額に対する計算にしかならないため、単利計算にしかならないということです。この利率を5年複利の利率に置き換えて考えてみましょう。
所得税率 | 一口 | 二口 | |||
---|---|---|---|---|---|
単利 | 5年複利換算 | 単利 | 5年複利換算 | ||
20% | 16.33% | 3.07% | 9.00% | 1.74% | |
23% | 18.08% | 3.38% | 10.00% | 1.92% | |
33% | 23.92% | 4.38% | 13.33% | 2.53% |
5年複利と考えるとまあそこそこかなという水準かと思います。一口の場合はバリュー株相当の利回りと見ることができます。二口の場合でも元本保証と考えればそんなに悪くない...と見えなくはないですがこれは間違いです。
二口の場合、一口の二倍の金額を投じているにも関わらず明らかに効率が落ちています。保険料控除は保険料が増えれば増えるほどメリットが落ちていきます。二口について、最初の一口と追加の一口と考えると、追加の一口は差分の利益しか生んでいないことになります。それぞれ単利計算で1.67%(税率20%)、1.92%(税率23%)、2.75%(税率33%)となり、5年複利換算で0.33%(税率20%)、0.38%(税率23%)、0.54%(税率33%)と言い換えられます。先程の利息とほぼ同等程度になってしまいますね。実際は年の途中で契約する事が多いと思うので、実際の節税効果は6年間使えると考えればもう少し良い成績になるでしょう。
個人的な見解で言えば、二口契約したのは完全な失敗と考えています。私は全世界株式の投信をメイン資産に置いている程度のリスク選好で、二口目は完全に後悔。この商品は積立額の変更はできないので、このまま持ち続ける必要があります。まあ債券でも買ったと思うか...。
逆に、投資リスクをあまり取りたくないという人は二口もアリで、極端な話四口入れる選択もあると思います。
この節税メリットを活かすため、積立期間が終わったら解約して再加入したいと考える人もいると思いますが、解約後3年間は再加入できないという制約があります。その期間が終われば再度節税に利用できます。まあ計8年後にこの商品が残っていればの話ですが...。
総評として、生命保険を契約していなければ節税商品としてそこそこ、リスクを嫌う人にとっては金融商品としての性能もまあそこそこといったところでしょう。ただ、絶対額が大きくないので(そこまで大変ではないですが)手間の割に合うか?という観点で見れば高収入の人にとっては微妙に感じそうです(高収入の方が節税メリットは大きいとはいえ)。とにかく庶民向け商品と言えるでしょう。
おまけ、医療保険について
先方の要望(情報収集?)もあり、相場感を知りたかったこともあり、面談の際に医療保険に関する契約資料を持っていきました。
私は以前勤めていた会社でまとめて契約している掛け捨ての医療保険に加入しており、夫婦あわせて年間2万弱という程度です。つまり一人あたりで月1000円以下です。病気、ケガ保障の一通りが付いており、ある程度の高度先進医療保障等もついています。
やはり大手の医療保険ということで、話を聞いていると大枠の保障は大差ないものの、細かな特約や健康診断結果に応じたキャッシュバックなど、やっぱり充実してるな〜月3000円くらいかな?みたいな寝ぼけたことを考えていたらそれどころではない金額でウケてしまいました。
正直一定の貯蓄もあるのでもはや不要では?と思いつつ、格安かつ税控除でさらに実質負担額も下がることを考えるとまあいいか...とズルズル契約していく気配があります。